全員加入の養老の保険料を1/2損金で落とす!!の「落とし穴」

「社長。貯蓄性の高い養老保険でも、保険料の1/2を落とすことが出来ます。」

保険の営業マンにそう言われた経営者は多いのではないだろうか?

養老保険は将来的に支払った金額の全額が「払った以上」に戻ってくる保険で、貯蓄として人気がある。

そのため法人で加入する時は原則的に「全額資産計上」となる。

預金のような性質を持った保険なので、それも当然であるが、

・死亡時の受取人を社員の遺族に指定

・社員全員加入

を前提とした福利厚生目的の場合に限り、保険料の1/2を損金として処理して良いとされる。

なお、この時は「オマケ」で役員が一緒に加入した分も1/2損金となる。

これは国税から正式に発表されているのだが、この時に重要なルールとして、

普遍的加入

というものがある。

要は1/2損金で落として良い代わりに「福利厚生として、社員全員を公正に扱いなさいよ」ということ。

そのため、

社員全員で養老保険に加入する → もちろんOK

入社〇年経過の社員全員で加入する → 条件は全員同じなのでOK

管理職のみ加入 → 一見OKそうだが、会社には色々な職種があり、必ずしも全員に管理職の道が開けているわけではないない。公正ではないのでNG

男性のみ、女性のみ → もちろんNG

役員のみ → そもそも社員が対象になっていないのでNG

となる。

次に加入する「保障内容」だが、全員一律であれば話が早いが、実務上、役職などで「差」を付ける場合もある。

全員一律 500万円(死亡時、満期時に500万円) → もちろんOK

一般社員 500万円、管理職 1,000万円 → おおよそOK

ここで「おおよそ」と曖昧な言い方をしている理由は、国税からの通達にこれらの「差」に関する明確な見解がないからである。

あくまで、「2倍くらいなら大丈夫だろう。」という経験則でしかない。



ここで「じゃあ何倍までいけるの?」という話になる。

特に社長に聞かれる。

実は養老保険の全員加入については、純粋に「社員の退職金のため、社員に万が一があった時のため」と考えて加入しているケースだけではなく、

社長や社長の家族の退職金

を主な目的として加入することも少なくないのである。そちらがメインで、社員はオマケということになる。

冒頭の保険の営業マンの説明でも、

「社長。貯蓄性の高い養老保険でも、保険料の1/2を落とすことが出来ます。」

という話の後に、だいたいは

「社員全員を最低限のプランに入らせて、社長とご家族は別途大きな保険に・・・」

と続く。

そのため、

一般社員 200万円

社長  1億円

こんなプランに入っている会社も掃いて捨てるほどあるのが現実。

こうなると社員と社長の「差」は50倍ということになり、流石にやり過ぎの感があり、

「社員の退職金を隠れ蓑にした社長の節税じゃないか!!」

と税務調査で言われれば、なかなか抗弁しづらいだろう。

で、「何倍までOK?」という話になるのだが、我々の業界内では一般的に

「10倍くらいまでなら大丈夫」

というのが定説になっていて、現場でもこのような話をする営業マンは多い。

従って、

「何倍でもいけます!!」

と豪語する営業マンは何も知らないか、もしくは「問題になったら逃げれば良い」と思っているかどっちかで、

「10倍くらいまでにしておいた方が良い」

と説明する営業マンはそれなりに良識があると言えるだろう。



が、最近この「10倍説」が崩れる裁判があった。平成27年の話。

ある医療法人、仮にここではA医院としておく。

契約内容は、

一般職員 500万円

理事長(院長のこと、妻 それぞれ5,000万円

となっており、10倍ギリギリの契約である。

これが税務調査で否認された。

裁判までやったが、A病院側の訴えは棄却され、結果、理事長と妻の保険料は「給与」ということなった。

過去にさかのぼって高額の所得税と住民税が課税されることになるが、法人税(病院は一般法人より税率が低い)より所得税、住民税の方が高いので、節税どころかかなりの増税になる。

判例の文章は難しいので、少々噛み砕いて言うと、

「A病院が主張するように、理事長は病院の借入の保証人でもあり、全ての経営を担っているので責任が重いことは分かる」

「でも、それは給与で報いるべきだし、保険が必要ならそれは別途加入すれば良い」

「あくまでこの養老保険は社員のための『福利厚生』なのだから、責任を理由に10倍も違うのはおかしいだろう。」

だからダメ。これは給与になるね。ということらしい。

まさに正論・・・

ついでに

「病院の経営は実質的に理事長とその妻の2人で仕切っていて、この保険に入るにあたり理事会で審議したり、別途福利厚生規定を作った形跡もない」

と指摘された上、

「理事長等は、自らが保険契約により経済的利益を受ける目的で、保険各保険契約を締結したものと評価せざるを得ない(原文のまま)」

と断罪されている。

この理事長にしても、そもそも理事会の審議(通常の取締役会にあたる)や、福利厚生規定の作成など、「やるべきこと」もやっていないのによく裁判なんかやったな。と思うが、当然、完膚なきまでに叩きのめされてしまった。

なお、この裏側では、A病院とこの保険を販売した保険の営業マンとの間で相当なトラブルになっていると想像できる。

「お前が大丈夫だって言ったから契約したのに、給与になったぞ!!どうしてくれんだ!!」

と大クレームになっているだろう。

しかし「10倍くらいなら大丈夫」というのが業界の認識だったのだから、この営業マンだけを責めるのもかわいそうな気がする。

しかし、理事会と規定に関しては明らかなミスがある。

養老保険に関する福利厚生規約くらいは保険会社にもフォーマットがあるのだから、

「先生、一応このフォーマットの内容を理事会で審議したことにして、規定に加えておいて下さい。」

と言うべきだろう。

この点は脇が甘すぎる。

なお、この判例に、

「10倍でも否認されたぜ、おい・・・・・」

と蒼ざめている生保関係者は少なくない。

しかし、今後同様の否認が続くかと思いきや、意外とそうでもなかった。

とは言え税務調査で生命保険のことを調べるのも稀なので、何となくバレていないだけだろう。

しかし、既に「判例」は出ているので、否認されれば勝てる見込みはない。

このことを知らない営業マンも多く、未だに現場では「10倍までOKトーク」が繰り広げられているが、その口車には乗せられない方が得策。

これこそ、養老1/2損金の「落とし穴」なのだから。