本稿では、法人保険の節税について解説したい。
まず結論から書くが、保険で節税をすることは
無理である
大前提としては、保険での節税は、今も昔も出来ない。
節税というよりは、単に税の繰り延べでしかない。これを知る必要がある。
このことを理解するために、少々時計の針を巻き戻したい。
2019年「以前」の法人保険の税制
保険業界の人間が「あの頃は良かった・・・」と懐かしむ税制改正前(2019年7月以前)の時代だ。
当時の保険は、保険の期間に応じて、1/2損金、全額損金というものが主流で、しかも返戻率が非常に高かった。
1/2損金であれば100%近くになるものもあり、全額損金でも88%、場合によっては90%を超えることもある。
仮に1/2損金の商品で、年間200万円の保険料を支払った場合、
損金 100万円
資産計上 100万円
となる。
損金100万円は、その分、利益を圧縮してくれるので、法人税が30%だとすれば、その分の税金が安くなる。
100万円の30%は30万円。
つまり、この保険に入ることで、100万円の損金が発生し、それにより30万円ほど法人税が安くなる計算。
これをもって「節税」と言っていたのだ。
これを10年続ければ、30万円×10年=300万円の節税になる。
ここまでの総支払保険料は2,000万円。
帳簿上の累積は以下のようになっている。
損金 1,000万円
資産計上 1,000万円
そして、この時点での解約返戻金を1,900万円(95%)だとしよう。
この状況を見て、経営者はこう考える。
「10年で300万円も節税出来て、更に2,000万円のうち1,900万円も貯まっているのか!!」
確かに、このような状況であればメリットはある。
節税出来て、内部留保も出来て、そして保険も付いているのだから。
だが、これを解約した場合、実はさほど得もしていないことに気づく。
1,900万円の返戻金が法人に入ってくるが、このうち1,000万円は既に資産計上をしているので「単にお金が動いただけ」である。
保険会社預けている預金を、自社の銀行口座に移しただけ。という理解。
しかし、その差額、1,900万円 - 1,000万円 = 900万円
は、帳簿上、どこからともなく「湧いてきたお金」となる。
今まで損金で処理してきていているが、言い換えれば「捨ててきたお金」のはず。
なのに、実はそれが裏側では貯まっていたということで、これを簿外資産などと言うが、会計上は雑収入で処理することとなっている。
純粋な益金(利益)として、その期の利益に上乗せされる。
結局はここで法人税が取られる。
900万円の30%は270万円。
税金としては、10年間で300万円「得をした」はずが、結局は270万円を納める羽目となる。
ただ、これでも税金は30万円ほど安くなっている。
この点では節税であることは間違いない。
しかし、その他に「損」がある。
2,000万円を支払って、戻ってくるのが1,900万円なのだから、この部分でも100万円を保険会社に取られているのだ。
そうなると、税金面での得は30万円(300万円ー270万円)、保険会社での損は100万円で、差し引き70万円のマイナスとなる。
そのため、結果からすれば、多少の「節税」ではあるものの、それ以上を保険会社に取られていることになり、話をまとめると、実態は以下のようになる。
・毎年30万円の節税をするために、200万円をキャッシュアウト(うち100万円が損金)
・10年間で300万円の節税になるが、結局270万円は支払うことになる(30万円の得)
・保険会社には100万円を取られる
・仮にこの保険に入らなければ、毎年30万円を支払い、10年間でマイナス300万円となるが、保険に入ったことで、税金270万円、保険会社100万円、合計370万円のマイナス
・差引マイナス70万円(300万円ー370万円)を支払い、得られるものは以下の2つ。
1 税の繰り延べ(とりあえず目の前の税金は安くなる)
2 10年間の保障
だが、これはこれで良いのだ。
経営者からすれば「とにかく今払いたくない」という心理もあり、先延ばし出来るならそれに越したことはない。
また、70万円程度のお金で、10年間自分の保障(死亡時の保険金など)が用意されている。
トータルで考えればメリットがあった。
ただし、保険業界の人間が「あの頃は良かった・・・」と懐かしんだとしても、実際には当時から節税にはなっていないということ。
しかし、今となってはそれでも「良い時代」だった。
国税からすれば、本来毎年30万円、10年間で300万円取れるはずの税金が「10年後」しかも「270万円にディスカウント」されたことになる、その分の金が保険会社に流れていることが許せない。
日本経済の衰退により、税収が減っている国税庁は、ここに手を入れてきた。
そして、2019年の税制改正で、更にルールが厳格化され、法人保険の節税性は完全に喪失した。
2019年「以降」の法人保険税制
現在のルールは、以下の通り。
・最高返戻率が50%以下 全額損金
・最高返戻率が50から70%以下 6割損金 4割資産計上
・最高返戻率が70から85%以下 4割損金 6割資産計上
・最高返戻率が85%超 100-(最高返戻率×0.9)を損金、残額を資産計上
各ケースを見ていこう。
先程の例と同じく、保険料が200万円だとする。
最高返戻率 50%以下の場合 全額損金
注:ここでは計算上、分かりやすく50%とする。
実際には49.9%というような商品が多い。
毎年200万円を10年間支払って、合計の損金は2,000万円。
法人税30%とすると、2,000万円×30%=600万円の節税効果。
しかし、解約返戻金は50%なので、2,000万円のうち1,000万円しか戻ってこない。
保険会社に保険料として1,000万円取られているということ。
600万円の節税をするために、1,000万円を支払っているということで、全く理に適わない。
注:あくまでお金のプラスマイナスだけの話。保障については考慮していない。
最高返戻率 70%の場合 6割損金
注:ここでは計算上、分かりやすく70%とする。
実際には70%を超えないように、69.9%というような商品が多い。
毎年200万円を10年間支払って、合計の損金は1,200万円(6割損金)
法人税30%とすると、1,200万円×30%=360万円の節税効果。
しかし、解約返戻金は70%なので、2,000万円のうち1,400万円しか戻ってこない。
保険会社に保険料として600万円取られているということ。
また、1,400万円戻ってきても、資産計上は800万円(4割)しかしていないので、差額の600万円が雑収入。
それに法人税が課税され、600万円×30%=180万円の課税。
本来360万円課税されるところが、180万円で済んでいるように感じるが、保険で600万円の純損をしている。
保険の純損600万円、雑収入への課税180万円。合計780万円。
これも360万円を節税するために780万円を支払っている計算で、論外。
最高返戻率 85%の場合 4割損金
注:ここでは計算上、分かりやすく85%とする。
実際には85%を超えないように84.9%というような商品が多い。
毎年200万円を10年間支払って、合計の損金は800万円(4割損金)
法人税30%とすると、800万円×30%=240万円の節税効果。
しかし、解約返戻金は85%なので、2,000万円のうち1,700万円が戻ってくる。
保険会社に保険料として300万円取られているということ。
また、1,700万円戻ってきても、資産計上は1,200万円(6割)しかしていないので、差額の500万円が雑収入。
それに法人税が課税され、500万円×30%=150万円の課税。
こちらも本来240万円支払う税金が150万円で済んでいるように見えるが、その代わり保険会社に300万円を取られている。
240万円の節税のために、450万円(税金150万円+保険の純損300万円)の拠出。
保障が得られる、という付加価値はあるものの、節税という面では意味がない。
まとめ
以上のことから、法人保険での節税というのは、今も昔も「無理」だったのが、特に税制改正以降は全く意味がなくなった。
なお、現状でも唯一、社員全員加入の福利厚生プランのみ、やや「昔に近い」節税性と貯蓄性がある。
また、福利厚生プランであれば、解約返戻金が100%を超えることもあり得る。
仮に返戻金が100%を超えるのであれば、それが税の繰り延べでしかなくても、保険会社側に支払うコストがなくなる。
納税を先送り出来ただけ良し、ということにもなる。
福利厚生については、以下のコラムでもまとめてあるので、ご参考まで。
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