健康診断の結果なんてあてにならない?!簡素化する査定

最近、保険会社の「診査」がどんどんと緩くなってきている。

診査とは、保険加入時の健康チェックのことで、

健康状態に問題はないか?

ということを調査することを指すのだが、これが簡単になっている保険会社増えているのだ。

つまり、契約者からすれば「入るための診査が楽になった」と言える。

診査には、まず第一に保険会社が用意する「告知書」への記入があり、これが全てのベースとなる。

過去3ヶ月以内に病院へ通ったか?過去5年以内に入院や手術をしたか?健康診断で指摘されていることはあるか?などを問うもので、言わばアンケートのようなもの。

だが、この告知書はあくまで自己申告であるため、保険会社からすると、その内容はかなり信頼性に劣る。

わざと嘘をつく人は少ないにせよ、勘違いで告知していなかったり、記載されている病名や検査結果の数値が違っていることも多いからだ。

そのため、告知書だけで入るのは「医療保険」、「がん保険」や「保険金の少ない死亡保険」だけに限られている。

なお、告知書だけで入れる金額は、保険会社などによっても異なるが、おおよそ2000~3000万円と言ったところではないだろうか。(また年齢によっても変わる)

それ以上の保険、例えば死亡時に4000万円とか、5000万円の保障が必要な場合には、告知書だけでなく「証拠」となる健康診断や人間ドックの結果であったり、それらがない場合には、保険会社と提携している病院に行って、問診、血圧、尿検査などを受ける必要がある。(保険金額がより高額な場合は、心電図、血液検査などが必要になることもある)

保険会社はこれらのデータを元に、保険に入れるか、入れないか、の判断をするのだが、最近、これらの査定の省略化の動きが激しい。

一例としては、本来、提出するべき健康診断を出さず、「身長/体重」、「血圧」、「尿検査の結果」などだけを抜粋して報告するだけで、健康診断の結果と同等に見なす、というようなものや、タバコを吸わない方向けの非喫煙割引などでも、ニコチン検査なし、とする会社が出てきている。
注:本来は検査用の綿棒を舐めて、その検体をもとにニコチンが検出されるか否かの検査を行う会社が多い

この理由は、大きく以下の3つと推測される。

1 業務の効率化

2 ビックデータ分析による健康診断結果重視への揺らぎ

3 法的解釈への保険会社の諦め

1については単純な話で、査定する際の内容が少なければ少ないほど、業務効率は上がる。

ただし、その分、査定は粗くなる。

チェック項目が減れば、その分、契約者の「嘘」や「勘違い」を見抜けなくなるからだ。

ただ、保険会社は「それでも良い」と考えているフシがある。

それが2のビックデータ解析だ。

この話は、どの保険会社もまだ公にはしていないため、あくまで筆者が関係者から「漏れ伝わってきた」内容から推測しているだけなのだが、信憑性は高いと思っている。

昨今、AIやビックデータ解析などが流行っていて、もちろん保険会社もそれらに取り組んでいる。

例えば、死亡率の計算などでも、年齢、性別だけでなく、

・血圧高め vs 血圧低め

・血糖値高め vs 血糖値低め

・過去にある病気をした人 vs その病気を経験していない人

など、各項目ごとにグループを作り、死亡率を比較するのである。

それらの結果を、AIなどに分析させると「どのような症状が出ている人が死亡率が高いのか?」ということが分かる。

保険会社としては、それを知っていれば、その傾向のある人を「加入させない」ということが可能となる。

保険金の支払いは、1件あたり数千万円と高額になるので、1件でもそれらを減らせれば、保険会社の増収に繋がる。

そのため、結構真剣に研究をしているようなのだが、ここで妙なことが分かった。

それが、

どうやら健康診断の結果の良し悪しは、死亡率とさほどの関係がないようだ

ということ。

つまり、従来、伝統的にやっていた健康診断結果による取捨選択には、さほどの意味がなく、例えば健康診断の結果が良くても若いうちに亡くなる人もいれば、健康診断の結果が悪くても長生きする人もいて、その両者にはそこまでの差がないということ。

特に保険会社が保険金を支払う可能性の高い60歳手前までの死亡率は、健康診断の結果うんぬんより「運」の要素が大きい。

ただ、血圧が高いとか、血糖値が高いとか、そのあたりは、そうでない人と比較すると、「ちょっとだけ死亡率が高い」ので、全部が全部無駄というわけでもない。

それでも健康診断の結果の大部分は「それを知ったところで、死亡率の判断基準にはならない」ということが分かってきた。

そうなれば、ある特定の数値、血圧や尿糖(遠まわしには血糖値のチェック)「だけ」を見れば良いということになる。

そのため、査定の簡易化、省略化が進んでいるのだろう。

だが、そうなるとあるリスクが出てくる。

何の証拠(健康診断結果や人間ドックの結果)もなければ、

嘘を付いて入る人が出てくる

ということ。

だが、これも保険会社からすると、「仮にそうだとしても仕方がない」と思わざるをえない理由がある。

それが、3の「法的解釈への保険会社の諦め」だ。

まず、今の保険業法を反映した各社の約款を読むと、基本的には告知の際に嘘をついて、つまり「告知義務違反」をしたとしても、加入してから2年間が経過してしまうと、保険会社側から解除は出来ないというルールになっている。(かつその2年間で保険の請求をしていないことが前提)

つまり、告知義務違反で保険に加入したとしても、2年間黙って保険料を支払っていれば、後からそれらが露見したとしても契約は存続することになる。

だが、ここで複雑なのは、必ずしも「契約が存続する=何かあった時に保険金を払う」ではないということ。

契約が続くことと、保険金を支払うことは、あくまで別の話であり、このあたりが素人には分かりにくい。

ポイントは告知義務に違反した内容と、請求した内容の「因果関係」にある。

実際の例を挙げてみよう。

1年前に胃がんの手術をした方が、それを隠して保険に入ったとする。

これは相当悪質な「嘘」である。

そして、3年目に胃がんが再発し、保険金を請求した。

諸々の調査で、保険会社は過去に胃がんであったことを突き止めた。

しかし、既に2年間経過しているので、保険会社側から契約を解除することは出来ない。

だがこの場合、保険会社は保険金を払わない。

胃がんという告知義務違反があり、更に今回も胃がんであれば、そこには濃厚な因果関係があるため「あなた入る時に嘘ついたんだから、ダメよ」となるわけだ。

つまり契約自体は続いているものの、「胃がんについて嘘をついていた」という事実があるため、何か請求があった場合、それを払うか払わないかは個別に判断される。

そして、そこに因果関係があれば保険会社は支払いを拒否する。

それでも「払え!!」と強硬に主張すれば、保険会社は「じゃあ裁判でも何でもやりなさいよ」と返し、実際に裁判になった場合、おそらく契約者が負ける。

要は、保険会社は裁判で「勝てる」から支払いを拒否しているわけで、場合によっては詐欺で契約者を訴える可能性もある(実際にはそこまでやることはほとんどないが)

しかし、これが「脳梗塞」だったらどうだろうか?

この場合、保険会社は「払う」

何故ならば、胃がんと脳梗塞には因果関係がないから。

もちろん「胃がん」という嘘をついているものの、契約の保険料自体は2年以上支払っている。

そのため、「胃がん」に関係するもの意外は、保障を受ける権利がある。と解釈されるからだ。

そして、これは仮に裁判になった場合でも、裁判所には保険会社に「払いなさい」という指示を出すことになるだろう。

先程の例とは別に、このケースでは裁判しても負けるから、保険会社は払うのである。

以上のケースから、契約が継続していても、保険金を払う場合もあれば、払わない場合もあるのだが、とは言え、「契約が継続している(今まで保険料を払ってきた)」という事実は決して軽いものではなく、保険会社も支払いを拒否するのには、相当な覚悟が必要になる。

そのため、医療保険などで、数万円から数十万円の給付であれば「判断が難しいから払っちゃおう」という柔軟な対応をする保険会社もわりと多いのだが、これが死亡保険金で数千万円、数億円となると、保険会社も結構本気で来る。

だが、それでも裁判になれば、先の胃がんのような「わかりいやすい事例」ばかりでなく、原則的には「それまで保険料を支払っている」契約者が相当に有利であり、保険会社にとっては良い結論にならないケースの方が多い。

余談ながら、払わない、と主張する以上、その根拠となる「因果関係」を証明する義務は保険会社側にあり、先ほどの胃がんを隠して入っていた例でも、それから5年後に別の場所のがん、例えば肺がんなどで亡くなった場合「因果関係を証明出来るか?」と言われると、実際にはかなり難しい。

そのため裁判になれば、契約者有利の判断となる可能性は高い。(絶対にそう、だと言ってるわけでもなく、告知義務違反はリスクを伴うので絶対やめて欲しい)

つまり、これが「法的解釈への保険会社の諦め」だ。

告知義務違反自体、保険会社として決して許されることではないのだが「自己申告に頼っている」という今の告知の制度では、そもそもが告知義務違反を完全に防ぐことは出来ない。

しかも、実際に揉めた場合、保険会社が有利かと言えば、決してそうでもない。

以上、述べてきたように「生死は結局は運」であることが、ビックデータ、AI解析で分かってきたため、健康状態の情報をそこまで細かく取る必要もない(健康診断結果などを取得し、それを精査する作業)

そして、それは保険会社側の業務効率化にも繋がる。

反面、それらの緩和化は告知義務を誘発しかねない。

しかし、「仮に」告知義務違反をされたとしても、契約してから2,3年も経過してしまえば「払わない」ということも現実問題としては難しい。

これらのメリット・デメリットを天秤にかけた上で、「緩和」に傾いている保険会社が増えてきているのだろう。

また、「診査が簡単」というのは販売戦略的にも大きなアドバンテージとなる。

おそらく、今後もこの流れは加速されるだろう。

「健康診断の結果なんて当てにならない」というのは、米国などではもう10年以上前から議論されており、ある調査では「自動車に搭載したセンサー」のデータの方が、人の生死によほど相関性があると報告されている。

若くて健康であっても、急ブレーキ、急発進、急ハンドル、などが多い「せっかち」な人には突然死の可能性が高く、対して、安全運転の人は何事にも慎重なので、健康状態に問題があっても、早め早めに対処・改善をするため長生きする傾向があるそうだ。

この分野では、日本はまだまだ遅れているが「健康診断結果だけ」を見る時代はもう終わりかけているのかもしれない。

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