一昔前なら「節税保険の華」であったのが逓増定期保険。
多くの企業で、目先の節税と税の繰り延べのために使われていた。
その時の商品の善し悪しを決めていたのが、
返戻率
要は、いくら支払っていくら戻ってくるか?それだけが勝負の分かれ目だった。
だが、2019年の法人保険の税制変更以後、返戻率が高ければ高いほど「損金にならない」というルールになってしまった。
こうなると、保険会社が高い返戻率を提示しても
「損金にならない=目先の節税につながらない」
ため、企業側にメリットがなくなってしまう。
そのため、逓増定期のマーケットは急速にしぼみ、今では全盛期の「1/10」とか「1/20」という規模になってしまった。
現行のルールでは、最高返戻率によって、以下のような経理処理を取る。
・最高返戻率が50%超~70%以下であれば保険料の6割を損金として処理出来る
・最高返戻率が70%超~85%以下であれば保険料の4割を損金として処理出来る
・85%超の場合、保険料 × 最高返戻率 × 90%を資産計上、残りを損金
ちなみに、85%超の場合、最高返戻率と損金の関係は以下のようになる。
最高返戻率 資産計上 損金
・90% 81% 19%
・95% 85.5% 14.5%
・100% 90% 10%
つまり、返戻率が85%を超えると、
「それって実質的に貯金だよね」
と判断され、急に資産計上分が増える。結果損金が減る。
そのため、現在、各社の逓増定期保険は「85%以下、4割損金」というルールが適用されるものが大半を締めている。
1 逓増定期で課税の繰り延べは出来るのか?
本稿では、まず「85%、4割」の逓増定期の有効性を考えてみたい。
まず、「税の繰り延べ」
という観点から考察すると、結論としては「まあ、やっても良いけど、あまり効果はないかな?」という感じ。
ここでは保険料を1,000万円、5年後を目処に85%で解約するというシミレーションで話をすすめる。
毎年1,000万円を支払って、4割が損金なので、400万円が損金となり、その期の利益を圧縮してくれる。
そのため本来であれば、400万円にかかる法人税(ここでは30%とする)120万円(400万円×30%)が「浮いた」ことになる。
120万円が5年、合計600万円「節税」出来た計算。
で5年後に解約をする。
5年間の総支払額は5,000万円(1,000万円×5年)
これの85%、4,250万円が戻ってくる。
この時点で、750万円(15%)は保険会社に取られていることになる。
つまり、600万円を節税するために750万円を取られていることになり、差し引き150万円のマイナスということ。
だが、マイナスはこれだけではない。
解約時にも課税されるからだ。
前述の通り、この契約では保険料の4割を損金として処理している。
そのため、5年時点では、
損金 2,000万円 / 資産計上(保険積立金) 3,000万円
となっている状態。
そこに4,250万円(85%)が戻ってくるのだが、資産計上しているのは3,000万円しかない。
会計上はその差額の1,250万円(4,250万円 ー 3,000万円)が
「いきなり発生した金額」
ということになり、これを雑収入として処理しなくてはいけない。
当然、その期の利益を押し上げることになり、何も対策しなければ法人税(30%)が課税される。
1,250万円 × 30% =375万円
つまり、「税の繰り延べ」を目的にして逓増定期に入った場合、プラス/マイナスを考えると以下のようになる。
プラス 節税 5年で 600万円
マイナス 保険会社の中抜き(純粋な保険料) 750万円
マイナス 解約時の課税 375万円
話を整理すると目先600万円の節税のために、750万円+375万円 合計1,125万円を失うことになるので、全くもって合理的ではない。
また、このような「損」をするために、多額の資金を「塩漬け」しないといけないのも痛い。
2 逓増定期が役に立つ条件はこれだ!!
しかし、それでも「やりよう」によってはこの逓増が役に立つケースもある。
それは以下の条件が揃った場合。
・返戻率が100%(もしくはそれに極めて近いレベル)の逓増定期に入れる
・キャッシュが豊富で、使わないお金が銀行に余っている
・解約する予定の◯年後に大きな資金を使うことがわかっている
筆者が扱った実際の例を見てみよう。
X社 不動産賃貸業
祖父の代から都内に複数のビルを所有。その管理会社を一族で経営。
長年の家賃収入の蓄積に加え、バブル期の良いタイミングで所有物件の一部を売却。
ビルの買い足し等もしているが、常に銀行口座には十数億円のキャッシュがある。
現在の社長は40代の女性。
この会社はビルを所有しているため、定期的に大規模メンテナンスが発生する。
そのビルに古さ、大きなによって、5年ごと、10年ごとなどの違いがあるが、ちょうど3棟のビルの修繕が10年後に重なることが分かっている。
もちろん手元の現預金を使えば何とでもなるのだが、
「ちょっとでもお得な方法はないか?」
ということで相談された。
そこで、複複数の保険会社の逓増定期の見積を取ったところ、10年後の返戻率で以下のような商品があった。
あんしん生命 返戻率 100%
あいおい生命 返戻率 99%
日本生命 返戻率 98%
もちろんこれだけ返戻率が高いと、保険料のうち10%程度しか損金に出来ない。
だが返戻率が100%(もしくはそれにほぼ近い)のであれば、損はしない。
また銀行にお金を預けていてもほとんど増えないが、このような逓増定期に「預け直す」ことで、毎年10%の損金が取れる。
本件の場合、毎年2,000万円の保険料を支払っているが、そのうちの10%、約200万円を損金とすることが出来る。
200万円 × 30% = 60万円
毎年60万円、10年間で600万円の節税効果がある。
そして「大規模修繕集中期」の10年後に解約をする。
その時点での会計上の処理は
総支払保険料 3億円
損金 2,000万円 / 資産計上(保険積立金) 2億8,000万円
となっており、そこに返戻率100%でほぼ3億円が戻ってくるので、資産計上している2億8,000万円との差額2,000万円が雑収入となる。
これにそのまま課税されると600万円(2,000万円×30%)の税金がかかるので、この10年間の節税効果600万円が相殺されてしまう。
だが、このケースの場合、解約時に大規模修繕という大きな出費があるため、そのタイミングで大きな損金が発生する。
結果、2,000万円程度の雑収入は「消せて」しまうので課税されることはない。
・10年間で多少の節税になる(銀行に寝かせておくよりは良い)
・10年間の間の死亡保障がある(約3.5億円)
以上の2点をメリットと感じて、本プランにご加入頂いた。
ここで話をまとめたい。
逓増定期が役に立つのは、以下のポイントを抑える必要がある。
・返戻率は100%か、それに近い数字であること
・キャッシュが豊富にあり、銀行→保険の預け替えという考え方が出来る
・結果、オマケ程度の損金が発生し、節税につながる
・出口(解約時)に雑収入を消せる損金(大きな投資など)がある
正直なところ、このスキームが「ハマる」企業は少ないとは思うが、もし条件が揃うのであれば「やらないよりはやった方が良い」という感じ。
なお、もし本スキームにご興味がある場合、より詳細の情報を提供することも可能。
注:本サイトには保険業界で働く様々なメンバーが参加している。そのため、法人保険に詳しいメンバーをご紹介することも可能。
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