保険適用がされない治療を受けた際、その実費を支払ってくれる
先進医療特約
現在では、ほとんどの保険会社の医療保険に
「特約(オプション)」
として用意されており、中にはプランに標準的に含まれている場合もある。
その保険料は、おおよそ月に100円前後であり、安いこともありほとんどの方が付けている。
しかし、この先進医療特約。本当に必要なのか?
そして入るのであれば、どのような商品を選べば良いのだろうか?
まず筆者の結論を言うと
・今すぐではなく、今後のために必要
・そして「終身型」を選ぶべき(10年更新はダメ!!)
だと思う。
まずは、必要性について説明する。
厚生労働省のデータを見ると、保険適用外の先進医療を受けて、患者が支払った「実費」は182億円とある(平成28年度)
一見凄い金額のような気がするが、日本全体での医療費は40兆円を超えているので、先進医療にかかっているお金は0.04%程度に過ぎない。
そして、実際に保険会社が支払っている給付金も微々たるものらしい。
次にその内訳を見てみると、以下の3種類の手術の合計で175億円と、総額182億円のうち96%を占めている。
1位の「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」とは白内障の手術のことで、1件あたりの平均治療費は55万円程度と、それほど高額でもない。
やはり、高額なのは「がん治療」のための陽子線と重粒子線の2つで、その件数はそれぞれ2016件と1787件。どちらも治療費は300万円近い。
つまりは、先進医療の実態は
・それほど高くはないが件数の多い白内障と
・高額で件数が少ないがん治療
の2つである。
しかし、この2つの治療はその裏側を見ると全く違う。
前者の白内障の治療は、イメージとしては歯科のインプラントのようなもので、「自費で高いけどレベルの高い治療」という印象。
わりと一般的な治療法で、地域のちょっと大きな病院へ行けば受けられる。
しかし、後者の陽子線や重粒子治療は、おいそれと受けることは出来ない。
ここに先進医療の重大なポイントがある。
陽子線や重粒子線の治療を含め、先進医療のほとんどは長い基礎研究が必要なもので、当初はお金を生まない。
そのため、それらの技術を持っているのは研究センターと併設されているような「病院」で、それらの病院をここでは便宜的に
「研究系病院」
とでも言っておく。
それに対して、街中の病院や通常の健康診断を行う病院を「ビジネス系病院」とする(少々言い方が悪いが 笑)
患者には分からないが、これらの病院は非常に高度に組織化されている。
例えば、自分の家の近くのクリニックに行くと、難しい症状だったり、より詳細の検査が必要な時には、そのクリニックの院長の出身大学であったり、もしくは地域の大きな基幹病院などの上部の病院に「紹介」されて、そちらにまわされる。
このように我々が日頃お世話になる中小の病院の上には「大病院」が控えていて、「集客システム」が確立しているのである。
そして、「研究系」と「ビジネス系」は基本的に交流が少ない。
研究系は金がかかるので、そのスポンサーは国や医療器械メーカーである。
それらの支援を受けて長い年月をかけて治療法を完成させる。ある程度の効果がのぞめるところまで来れば、患者を募集して「実費」で治療を行う。
それが陽子線や重粒子治療だと思うと分かりやすい。
それに対して、ビジネス系病院は、日々の診療で患者から受取る治療費(3割負担分)と国からの保険診療分(7割)が収益となる。
この違いを、ある「がん患者」を例に説明する。
体の不調を訴え、近くの病院へ行く。前述のような集客システムに乗っかり、その上部の大病院で「がん」という診断を受ける。
当然、その病院はがんの治療で儲かる。
余談だが、大体がん患者1人で200万円程度は儲かる。と言われている。
先進医療の効果が高いことは医師であれば何となく知っていても、自分のところで治す自信もあるし、更には利益を生む患者を、
他所に紹介する必要はない。
ということになる。
ちなみに、これが「悪い」と言っているわけではない。
戦後から綿々と築かれてきたシステムだし、実績やデータも多いので、これはこれで構わないのだが、こと先進医療に関しては、自分から
「受けたい!!」
と言わなければ、既存の医療システムの中では受けられないのである。
良い治療法だからと言って担当医師が勧めてくれるとは限らないし、もし「先進医療も検討してみては?」と言ってくれるのなら、その人は本当に患者思いの先生だろう。
ほとんどは、
「やるならどうぞ。止めはしません。」
という態度で、先進医療を行っている病院も自分で探さないといけないし、そして高額な治療費も自費ということになる。
つまり、手術重視、抗がん剤治療という保険適用の、昔ながらのビジネス系にするか?
実費だが、最先端治療を行う「研究系」にするか?
それを自分で決めないといけないことになり、知識の少ない患者が決断するのは難しいだろう。
だからこそ、毎年90万人近いがん患者が「生まれる」我が国においても、先進医療でのがん治療件数は「たかが」3800件程度なのである。
それに対して、件数も多い「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術(白内障)」は何故普及したのか?
それは技術が普及し、器具も安価になったからである。
つまりは「研究系」だけでなく、「ビジネス系」でも手が出るレベル(技術的にも、投資的にも)になると、一気に世の中に広まる。
ビジネス系病院からしても、自費診療は儲かるので是非ともやりたいところである。
ちょっと前の話になるが、先進医療の一つで、前立腺がんの手術を「ロボット」で行うという治療があった。
最近は保険適用が認められて、先進医療の指定を外れたのだが、「Da Vinci(ダヴィンチ)」という装置を医師が操縦して行うもので、その自費診療代は、だいたい50万~70万円。
この装置はだいたい3億円くらいで、「大きい病院なら」買えないこともない投資規模である。
3億円で購入し、50万円で「最先端の前立腺がんの治療」をバンバンやれば儲かる、という「計算」が成り立つ。
ある種の「ダヴィンチ事業モデル」とでも言えるが、それがあまりにも普及したものだから、今度は保険適用になった。という事例である。
陽子線も重粒子線にも同じことが言える。
これも機械や装置が安くなったり、これを扱える技術者の数が増えれば、ビジネス系病院の治療ラインナップの中に組み込まれて、世に広まる可能性が高い。
要は「採算が成り立つ」ようになれば、普及するということ。
但し、陽子線や重粒子線の装置はまだまだ高額で、最低でも70億円以上の投資が必要になるため、「せめて10億円台」まで下がらなければ、一般には広まらないかもしれない。
しかし、三菱電機や、日立などの大手メーカーが「普及版」の開発を行っているため、10年後にはどうなっているか分からないし、現在は300万円だが、100万円くらいで治療が受けられる時代が来るかもしれない。
前述のダヴィンチ並に一般的な治療になれば、保険適用の可能性もあるが、今のひっ迫した日本の社会制度を考えると、どうだろうか?・・・・
高額な治療ゆえ、いつまで経っても保険適用にならない、という状況もあり得る。
そうなると、歯のインプラント同様、陽子線、重粒子線治療は、
「お金持ちの治療」
という位置づけになるかもしれない。
そうなればこの先進医療特約がとても役に立つ。
実費を負担してくれるのだから、自分の財布を気にせずに、身近にあるビジネス系病院で最先端の治療が受けられる。
あくまで筆者の予想だが、近い将来こうなることが容易に想像できる。
だから、先進医療特約には、
今のうちに入っておいた方が良い。
という結論になる。
次に「終身型」を勧める理由だが、筆者ですらこんな未来を予想しているのだから、生命保険会社の商品企画をするような頭の良い連中も当然同じことを考えている。
「今は先進医療特約の請求なんてほとんど来ないが、将来的には『凄い数』の請求が来るかも・・・・」
そうなると、今の「月に100円程度」の保険料では大赤字になる可能性が高い。
そのため、保険会社によっては先進医療特約に関しては「10年更新」としているところも多い。
10年単位で保険料を見直せるようにしているのである。
筆者が保険会社の社長でもそうするし、賢い戦略である。
しかし、何故か「月々100円」を「終身型(保険料がずっと変わらない)」で提供している会社もある。
どのように採算を考えているのかは分からないが、
「多分大丈夫だろう」
という希望的観測で、他社との差別化として提供しているのだろう。
そのような会社は、将来大変なことになる可能性もあるが、契約する個人からすれば「安い保険料」を一生涯に渡って約束してくれるのだからありがたい話である。
だから、先進医療特約に入るなら「終身型」を選ぶべきである。
個人的には医療保険を選ぶ時には、かなり重要なポイントだと思っている。
この記事を読んでいる方が参考になるコラム!!