通常の終身保険に、以下の保障、
・がん
・急性心筋梗塞
・脳卒中
いわゆる「3大疾病」をセットにした保険。
それが特定疾病保障型終身保険(以下、特定疾病保障型)である。
単に特定疾病保障保険と呼ぶところもある。
これらの商品について、当サイトで把握し分析・評価を終えているものは、以下の通りである。
円建
オリックス生命 特定疾病保障保険With(ウィズ) ★★★☆☆
SOMPOひまわり生命 新・誰でも終身(無選択型終身保険) ★★★☆☆
ソニー生命 リビング・ベネフィット20(特定疾病保障型終身) ★☆☆☆☆
ネオファースト生命 ネオdeとりお(特定疾病保障型終身保険) ★☆☆☆☆
ドル建
ジブラルタ生命 米国ドル建特定疾病保障終身保険(低解約返戻金型) ★★★★☆
ソニー生命 リビング・ベネフィット20(米ドル建生活保障・終身型) ★★★★☆
死亡と3大疾病がセットになった保険。
一見、良さげにも思えるか、さてどうなのだろうか?
そこで、本コラムでは、
「これらの商品は得なのか?損なのか?」
そんなことを考察してみたい。
話を進めるにあたり、具体的な商品がないことには何ともイメージが湧きにくいので、ここではオリックス生命のwith(ウィズ)という商品を取り上げる。
当サイトの評価でも、円建の特定疾病保障型終身保険では、最も高評価の商品である。
保障内容としては、先に挙げた通り、死亡だけでなく、がん、急性心筋梗塞、脳卒中の際に受け取れるのだが、がんについては「診断のみ(がんです。と言われただけでOK)」なのに対し、急性心筋梗塞、脳卒中は手術か、60日以上の労働制限が条件となっている。
保険料は、30歳 男性で
「60歳までに払い終わるプラン(60歳払済)」
の場合で、
保険金500万円 保険料12,660円/月
となっている。
しかし、これ単体だけでは何とも言いようがなく、もう2つほど「比較対象」となる商品にご紹介したい。
それらとの対比の中で、特定疾病型の終身保険のメリットやデメリットが浮き出てくるのではないか?筆者はそう考えている。
まず一つ目は、「普通の終身保険」である。
がんや、急性心筋梗塞、脳卒中など余計な保障はなく、シンプルに「死亡」だけの保障。
これも、先のサンプルと同じくオリックスの商品を使おう。
こちらも保険料も安く、当サイトでも高評価である。商品名は「RISE(ライズ)」と言う。
先の例と同じく、30歳男性、60歳払済60歳で支払いが完了する)の場合、
保険金500万円、保険料10,870円/月
となる。
この商品との比較をもって、死亡保障に「3大疾病を付ける」ことのメリット・デメリットを探りたい。
そして、2つ目の比較対象が、医療保険などにオプションとして付けることが出来る「3大疾病一時金」である。
こちらも、がんや急性心筋梗塞、脳卒中の際、一時金を受け取れるもの。
こちらは、純粋に「3大疾病の保障」としての比較で、掛け捨ての医療保険にオプションとして付けた場合と、貯蓄型の終身保険にセットにした場合の違いを比べてみたい。
ただし、これら医療保険のオプションとしての3大疾病一時金は、特定疾病保障型の終身保険より、支払条件が「かなり緩い」
具体的には、特定疾病保障型の終身保険では、急性心筋梗塞、脳卒中に関して、前述の通り「手術 or 60日以上の労働制限」が支払い条件となるのに対し、医療保険の3大疾病一時金では「入院」だけで支払い対象となることが多い。(がんに関しては、どちらも同じ。「診断」だけで払う)
つまり、後者の方が「より簡単に」保険金を受け取ることが出来るわけで、その点で言えば条件はかなり違う。
「それでは比較にならないのでは?」
読者の中にはそう指摘する方もいるだろうが、今はとりあえずその指摘は横に置いておいて頂きたい。
条件は異なるものの、保障内容としては「かなり似ている」ことは事実であり、この両者を比較することで、特定疾病保障型の終身保険の実像が見えてくる。
筆者はそう思っている。
その結論が出るまで、しばらくお付き合い頂きたい。
これに関する商品も、どうせここまで来たのだからオリックス生命のものを使いたい。
医療保険cureのオプションとしての「重度三疾病一時金(3大疾病一時金)」というものがある。
30歳 60歳払済という条件で、この特約の一時金100万円を付けた場合、+3,580円/月となる。
なお、これも先ほどまで「保険金500万円」と言っていたのに、3大疾病一時金では急に100万円に減ってしまっている。
しかし、これにも意図があり、それも後々明かしていきたい。
以上、現時点では3つの商品が出てきた。(全て30歳 男性 60歳払済)
1 特定疾病保障型終身保険 with 12,660円/月(保険金500万円)
2 普通の終身保険 RISE 10,870円/月(保険金500万円)
3 医療保険cure 重度疾病一時金 3,580円/月(保険金100万円)
注:正確には重度疾病一時金(三大疾病)は、医療保険のオプションであり、これ単体で加入することは出来ない。
必ず医療保険(入院1日5,000円など)とセットにする必要があるが、ここでは便宜的に保障内容とその保険料だけを抜き出している。
通常の終身保険との比較
まず1と2の比較。
この2つ、「何が違うのか?」と言えば、1は死亡だけでなく、がん、急性心筋梗塞、脳卒中でも保険金を払う、ということに対し、2では死亡しか払わない(正確には高度障害も払う。これは1も同じ)
保険料の差は1790円。
この1,790円で、死亡だけの終身保険が「3大疾病でも払う」という形にバージョンアップされるわけだ。
ではこの差が一体何をもたらすのか?いくつかのパターンに分けて見てみたい。
1 3大疾病を経験せずに死亡した場合
これはどちらも同じ。500万円の保険料を受け取れる。
結果が同じなのであれば、保険料が安い方が良い。要は普通の終身保険の方が良かったということになる。
2 3大疾病で手術をした場合
この場合、1の特定疾病型終身保険では500万円の保険金を受け取れるが、2の通常の終身保険では保険金は発生しない。
ここまでの2つについては、お読みになっている方も「何を当たり前のことを・・・」と呆れているだろう。
そこで、少々、変化を付けたパターンをいくつか追加したい。
3 40歳の時に3大疾病で一時金を受け取ったが、その後、すぐに死亡してしまった場合
例えば40歳でがんと診断され、一時金を受け取る。
しかし、半年後に転移。闘病のかいなく死亡してしまった。
このようなケースであれば、どうだろうか?
確かに、この場合、1の保険に入っていれば、がんと診断された時に500万円の保険金を受け取れる。
しかし、特定疾病保障型の終身保険は「保険金を一度受け取れば契約はそこで終了」となるため、半年後に死亡した時には何もない。
注:「がんでも貰える、死亡でも貰える」と、保険金が複数回受け取れるものと勘違いしている方が少なくない。「保険金は一生涯に一度だけ」が正しい。
結果的には「普通の終身保険」でも、半年後には500万円を受け取れることになり、であるなら、やはり「保険料が安い方が良い」ということになる。
4 40歳の時に3大疾病で一時金を受け取り、完治、その後、85歳で亡くなった場合
これは明確に特定疾病保障型に利がある。
そもそも30歳で加入し、40歳で500万円を受け取っているのだから、10年程度しか保険料を支払っておらず、それで500万円。
以後の保険料は発生しないのだから契約者からすれば「大儲け」というところだろう。
このケースはとても重要なので、覚えておいてもらいたい。
特定疾病保障型が一番「輝く」パターンだ。
5 65歳の時に3大疾病で一時金を受け取り、完治、その後、85歳で亡くなった場合
これはどうだろうか?
65歳ということは、その5年前の60歳の時に保険料の払込は終了している。
30歳から60歳まで、30年間保険料を負担した場合、特定疾病保障型の終身保険の総支払保険料は約456万円、65歳で500万円を受け取っても、自分が支払ってきた保険料総額との差額は44万円(500万円-456万円)しかない。
一方、普通の終身保険は、この場合、保険金を受け取ることは出来ない。あくまで支払い対象は「死亡」だけだからだ。
だが、「解約する」という裏技もある。
こちらも60歳までに391万円を支払っている。
そして、それを65歳で解約すると、返戻金は450万円程度だろう
(注:サイトの情報にて、60歳時点で430万円:返戻率109.9%とある。また、時間の経過に応じて、返戻金は年1%程度増える。そのため65歳では450万円くらいはあるはず)
そうなると、500万円に及ばずとも、450万円というまとまったお金が用意できて、更にはその原資(総支払保険料)は391万円なのだから、差額は59万円となり、実は特定疾病保障型より「お得」なのである。
なお、このケースでは65歳だが、これが70歳、75歳などになると、終身保険の方の解約返戻金は増えていくので、より「普通の終身保険」の方が有利になる。
年を取って3大疾病になったら解約して、返戻金を得れば良い。
もしくは、80歳とか90歳の高齢になってから大病をし「どう考えても、寿命はあと少しだろう」と予測できるのであれば、死亡時まで待って満額の500万円を得てもよい。
そう考えれば、高齢になった時まで「何もなかった場合(死亡しない、3大疾病にならない)」という場合、実は普通の終身保険でも十分役に立つ。
それどころか、特定疾病保障型の終身保険の方が「保険料が高かった分」不利になってしまうのである。
以上、5つのケースを見てもらうと、明確に特定疾病保障型のメリットがあるのは、ケース4の「保険料支払っている間に三大疾病になった(しかも若い時)」という場合だけであり、その他のケースでは、普通の終身保険の方が良いということになる。
特定疾病保障型も普通の終身保険も「死」が訪れた時には、どちらも満額を支払う。
そして誰しも死を避けることは出来ないので、つまりは長い人生を俯瞰して見れば、
「保険会社から500万円を受け取った」
という「結果」は同じなのである。
要は「受け取るタイミング」が違うだけということ。
そのタイミングが保険料の支払いを終えた後の高齢になってからであれば、ケース5で説明した通り、どちらも大差ない(むしろ普通の終身保険の方が得)ので、特定疾病保障型が「輝く」のは、やはり若いうち、保険料を負担しているうちに三大疾病によって保険金を受け取れる場合だろう。(死亡であれば通常の終身保険でも500万円を受け取れるため)
話をまとめると、特定疾病保障型と通常の終身保険の差額「1,790円/月」は、60歳までの間に3大疾病になった場合に、
「保険金を前払いしてくれる」
ためのコストということになる。
若くして死んでも同じ、歳を取って3大疾病になっても同じ、歳を取って死んでも同じ。
唯一「若い時に三大疾病になったら・・・」という時のためだけに、毎月1,790円を捨てている。
そんな表現が、特定疾病保障型という商品の本質をとらえているかもしれない。
では、特定疾病保障型はムダなのだろうか?
そう決めつけるのも早計だ。
実際に、3大疾病のリスクは、いつだって存在するからだ。
確率論からすれば、7割程度の人が「がん、急性心筋梗塞、脳卒中」のどれか、もしくは複数を経験する。
各種統計を見ると、これらの病気のリスクが高まるのは60歳以降であり、先のケースで言えば「保険料支払完了後」なのだが、それでも若いうちにこれらの病魔に襲われる人も現実にいる。
これも統計などを見ると「全体の15%くらいかな?」というところ。
6人に1人くらいが、30代、40代、50代の「現役中」に、がん、急性心筋梗塞、脳卒中になっているため、そのリスクは見逃せない。
やはり「三大」と言われるくらいなので、これら3つの病気は死因のランキング上位を占めており、それになってしまえば簡単な病気ではないし、そのリスクに対して、無策というのもいかがなものかとは思う。
医療保険のオプション「三大疾病一時金」との比較
では、特定疾病保障型「以外」の対策にはどのようなものがあるのだろうか?
それが先に比較検討の相手として挙げた2つ目。医療保険の特約としての3大疾病一時金だろう。
ここで、保障を「三大疾病だけ」に絞るとどうなるのか?という点を見てみたい。
もうお忘れになっている方も多いと思うので、改めて保険料を提示する。(30歳男性 60歳払込の場合)
1 特定疾病保障型終身保険 with 12,660円/月(保険金500万円)
2 普通の終身保険 RISE 10,870円/月(保険金500万円)
3 医療保険cure 重度疾病一時金 3,580円/月(保険金100万円)
この3番目の3,580円。これで何が得られるのだろうか?
この保障では、がん、急性心筋梗塞、脳卒中で診断(がん)や入院(急性心筋梗塞、脳卒中)をした時に一時金として100万円を受け取れる。
1年に1回を上限に何度でも受け取れる。
3,580円を30歳から60歳まで払った場合(60歳払込)、その総額は約129万円となるので、100万円を2回受け取れれば「この保険に入っておいて良かったなぁ」ということになるだろう。
1回だけなら赤字だ。
そして「一度もならない可能性」もある。
一生涯を通じて、3割程度は先の3つの病気にならないラッキーな人たちが存在し、その人にとっては、この保険は「129万円を捨てただけ」となる。
単純な感想としてもったいない。
ただ、ここまでお読みいただいた読者は、こんな感想を持つのではないだろうか?
100万円しか受け取れないのに3,580円って高よね。
と。
先の「500万円」に比べると、随分少額だし、複数回受け取れるという違い(それと支払い条件の違いなど)はあるが、それでも比較対象の特定疾病保障型での保険金500万円を受け取るには5回も大きな病気を経験しないといけない。
しかも、「病気にならない」場合は129万円を捨てることに。
なんか割が悪い気がする・・・・
筆者も似たような感想を持っている。
これに比べると、やっぱり特定疾病保障型の方が良い。
特定疾病保障型が、本質としては「死亡保険金の前払い」であり、そのために「毎月1,790円の手数料を支払っている」ということを理解した上でも、実際に3大疾病になれば500万円というお金が手元に入ってくる。
病気と闘わないといけない身としては、これほど力強いことはない。
もちろん、前述した通り、
・3大疾病にならなかったり
・高齢になってから3大疾病になった
ようなケースでは、「普通の終身保険の方が良かった」ということになるのだが、それでも
「若いうちの3大疾病のリスクを消す」
という目的を満たすことを考えれば、100万円のために3,580円を払うよりは、500万円の「前払い」のために1,790円を払った方がマシではないだろうか?
3大疾病になるか、ならないかなんて誰も分からないが、運悪くなってしまった時にはまとまったお金(医療保険の一時金の5回分)が入ってくるし、運良く、これらの病気を経験せずに済んだ場合でも、最終的には500万円が入ってくるので損はしていない。
単純に死亡保障として考えた場合、終身保険と比較すると「特定疾病保障型の方が良い!!」とは言い切れないが、それでも掛け捨ての医療保険の3大疾病一時金などよりは優位性がある。
本コラムの結論
以上のことから、筆者の結論としては、
特定疾病保障型は悪くない
ということになる。
なお、最大のネックは保険料が高いこと。
医療保険のオプションであれば数千円で済むが、特定疾病保障型は基本的には終身保険なので、保険料のベースが高く、どうしても1万円前後となってしまう。
そのため、筆者は普段の保険相談では
「保険料が負担出来るのであれば特定疾病保障型の方が良い」
と説明している。
1万円くらいなら払える、という人もいれば、いや1万はキツイ。今はとりあえず掛け捨ての保険で良い、という人もいるだろう。
こればかりはお財布の話なので、自分で判断するしかない。
最後に、この種の商品には、現在、円建とドル建があるが、負担する保険料、将来の返戻率などは、明らかにドル建の方が良い。
為替リスクはあるが、それが気にならないならドル建を検討した方が良い。
以上、長文になったが、筆者なりに特定疾病保障型について考察してみた。
最後に当サイトで掲載している特定疾病保障型の保険を以下に再掲する。
円建
オリックス生命 特定疾病保障保険With(ウィズ) ★★★☆☆
SOMPOひまわり生命 新・誰でも終身(無選択型終身保険) ★★★☆☆
ソニー生命 リビング・ベネフィット20(特定疾病保障型終身) ★☆☆☆☆
ネオファースト生命 ネオdeとりお(特定疾病保障型終身保険) ★☆☆☆☆
ドル建
ジブラルタ生命 米国ドル建特定疾病保障終身保険(低解約返戻金型) ★★★★☆
ソニー生命 リビング・ベネフィット20(米ドル建生活保障・終身型) ★★★★☆
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