日本円での終身保険。
保険商品の中でも、ごくごくスタンダードなものだが、現状「冬の時代」だと言わざるをえない。
理由は長引く低金利。
各社、この低金利に喘いでいる。
低金利で魅力減の終身保険
低金利と終身保険、その双方にどのような関係があるのか?
まずは、終身保険という商品の特徴を見ていこう。
終身保険は、その字の通り「身が終わるまで」の保険である。
保障は一生涯、亡くなるまで続く。
例えば30歳 男性が終身保険500万円に入った場合、加入翌日に亡くなっても500万円、100歳で亡くなっても、遺族は500万円の保険金を受け取れる。
人間、誰しもいつかは亡くなるのだから、終身保険の保険金を受け取れる確率は100%ということになる。(保険を解約しない限り)
これは保険会社側からすれば「いつかは必ず払わないといけない」ということで、そのため、保険金の大部分は契約者本人に貯めてもらう必要がある。
では、500万円のうち、いくら貯めれば良いか?
これは、「期間」と「金利」による。
極端な例を言えば、80歳の男性が「500万円の終身保険に入りたい」と言えば、保険会社は
「今すぐ499万円を支払って下さい」
そう言わねばならない。
80歳、すぐに死ぬ可能性もあるし、すぐとまでは言わなくても、さほどの時間はない。
運用の時間もほとんどない。
そのため、保険会社としては、ほぼほぼ500万円である499万円を預かっておく必要がある。
逆に30歳男性であれば、すぐに亡くなることはない。
もちろん「明日死ぬ可能性」は誰にでもあるが、現実的に、そして統計的に30歳 男性は、あと50年程度は生きる。
保険会社からすれば、預かった保険料を運用する「50年」という時間がある。
現状、30歳 男性 500万円の終身保険の保険料は、65歳払込で毎月1万円前後だろう。
ここで話を補足すると、65歳払込とは、
「65歳まで保険料を支払えば、その後の保険料は払わなくても500万円の保障は続く」
という意味で、保険料を短期間(と、言っても35年間だが:30歳-65歳)で払い込んでしまうこと。
ほとんどの契約はこのように65歳払込や、60歳払込となっていることが多い。
話を戻す。
毎月1万円を35年支払う。その合計は420万円。
つまり、65歳までに420万円を積み立てれば、保険会社はいつか死亡した時に500万円を払う。
420万円を元手として運用し、保険会社はそれを500万円にする。
男性の平均寿命は82歳なので、30歳男性が亡くなるのは、「平均して」52年後だろう。
52年後までに420万円を500万円にする。率で言えば+19%
52年間で19%は、年0.37%程度に過ぎず、「運用成績」としては随分と情けない。
だが、仕方がないのだ。
これが低金利の影響。
保険会社は預かった保険料を自由に運用して良いわけではない。
ヘッジファンドのような高リスク、高リターンの運用が出来るはずもなく、実際は国債・地方債を買うくらいしか出来ない。
法律や金融庁の指導でそうなっているのだ。
現在の国債の利回りは0.2%と過去最低で、長引くマイナス金利政策の影響をモロに受けている。
従って、この環境下では保険会社どう頑張ってもやりようがない。
むしろ、先程計算した0.37%は、国債0.2%より「まだ良い方」なのだ。
余談ながら、筆者がこの業界に入った30年前。
30歳 男性で500万円の終身保険の保険料は毎月5,000円くらいだった。
総支払保険料は210万円。保険金の半分以下の積立で済んだ。
何故なら当時の国債の利回りは4~5%程度あったから。
これだけの金利があれば、保険会社は、210万円を500万にする自信があったのだ。
ここまで説明してきて、十分ご理解頂いたと思う。
金利が下がれば保険料は上がる。
500万円の保険金のために420万円も積み立てないといけない状態では、契約者もさほどの旨味は感じない。
そのため、冒頭で述べた通り「冬の時代」なのである。
実際、各社、円建の終身保険の販売は落ち込んでいるし、また、保険会社としても、あまり積極的には販売していない。
この低金利では保険料を預かっても、保険金を用意するだけで精一杯で、自分たちが儲からないからだ。
派生する終身保険
そのため、各社、終身保険の「変化球」のような商品を出している。
ざっと以下の4つ。
1 ドル建終身保険
2 特定疾病保障付終身保険
3 介護付終身保険
4 変額終身保険
ドル建終身保険は、現状、一番の売れ筋だろう。
日本の国債で運用してもダメなら、まだ利回りの高いアメリカ国債でやる。
そんなシンプルな発想で出てきた商品で、多くの保険会社が販売している。
次に特定疾病保障付終身保険。
これは、通常の終身保険より「保障範囲を拡大した」もの。
通常の終身保険は、死亡と高度障害でしか保険金を払わないが、特定疾病付では、これに加え、がん、脳卒中、急性心筋梗塞でも払う。
なお、範囲が広い分、保険料は上がり、保険金が500万円で、通常の終身保険が420万円積み立てないといけない(前述の通り)なら、特定疾病付は470万円くらい。
つまり、
「ほとんど全額自分で貯めているようなもの」
ということになる。
ただ、がん、脳卒中、急性心筋梗塞は若いうちでもなり得るので、そのような時には安心でもある。
介護付終身保険も同じ。
死亡だけではなく、介護になった時も払う。
そして、特定疾病同様、内容が良くなる分、保険料は高くなる。
最後の変額は、支払った保険料を保険会社が用意した「ファンド(海外株式、国内株式、海外債権、国内債権など複数のメニューがある)」に投資するもので、その投資結果が、解約返戻金にも保険金にも反映される。(保険金のみ最低保障あり)
昨今の株高で人気があるが、とは言え、なかなか複雑な商品でもある。
そのため、理解できず敬遠されることもあるし、筆者も「良く分からない」のであればやめておいた方が良いとも思う。
なお、上記の商品群(通常の円建終身保険も含め)には、変額終身保険以外に「低解約返戻金型」というものが用意されていることが多い。
低解約返戻金型は、保険料を支払っている間、解約返戻金が低く抑えらえているタイプの商品で、つまりは保険料を支払っている間に解約をすると大損する。
だが、その対価として、保険料を支払った直後(商品によっては、支払い完了1年後というものもある)に一気に返戻金が増える。
また、低解約返戻金型は、そうでないもの(いつでも一定の返戻金がある)に比べ、保険料が割安に設定されている。
なお、低解約返戻金型については、以下コラムにて詳細を解説しているので、ご参照頂きたい。
参考コラム:低解約返戻金型とは何か?契約者、保険会社双方のメリットとは?
主なプレイヤー(保険会社)
さて、今まで終身保険の仕組みを紐解きながら、その保険料が低金利とどう連動するのか?を解説した。
そして、それらの影響で魅力が低下した円建の終身保険の代わりに、どのような派生商品があるのかという点について触れた。
最後に、各商品の主なプレイヤー(保険会社)について、具体的な名前を列挙しておこう。
「この分野なら、このあたりの保険会社を比較し、条件が良い方に入っておけばまず間違いない」
そんな感じて捉えて頂いて良い。
円建終身保険
まず、本稿のメインテーマである円建の終身保険だが、2022年3月時点で圧倒的に強いのはマニュライフ生命。
率直に言って、一人安、という感じで、保険料の安さでは他の追随を許さない。
だが、当サイトではマニュライフには保険会社としての信頼度が低いという評価をしており、掛け捨ての保険であれば別に良いが(貯蓄性がないので、嫌ならいつでも辞められるため)、返戻金を人質に取られているような終身保険はどうかな?という印象を持っている。
時点でオリックス。こちらも単独2位という印象。
さらに一段落ちて、ひまわり、アフラック、あいおい、あたりが3位集団を形成している。
それ以下となると、保険料高く、将来の返戻率低く、という感じで検討するに値しない。
オリックス生命 特定疾病保障保険With(ウィズ) ★★★☆☆
ドル建終身保険
ドル建終身については、非常にプレイヤーが多いが、こちらはプルデンシャル、ジブラルタ、ソニー、オリックス、マニュライフ、メットライフあたり。
だが、ドル建終身の場合、保険料が安くても将来の返戻率が低かったり、逆に保険料は高いが、その分、返戻率が高かったり、また予定利率も「固定タイプ」と「変動タイプ」などがあるため、なかなか比較が難しい。
そのあたりは、以下、コラムにまとめてあるのでお読み頂きたい。
参考コラム:ドル建商品の比較検討はこうすれば良い!!
ジブラルタ生命 米国ドル建終身保険&米国ドル建終身保険(低解約返戻金型) ★★★★☆
メットライフ生命 USドル建終身保険 ドルスマートS ★★★★☆
オリックス生命 米国ドル建終身保険candle(キャンドル) ★★★☆☆
特定疾病付終身保険
特定疾病付終身は、オリックス、ひまわり、ソニー、ネオファーストあたりが1位集団だが、明確なトップがおらず団子状態(年齢性別によって保険料が勝ったり、負けたり)、2位集団にあいおい、日本生命あたりという感じ。
正直、1位集団の中で決めて良い。
オリックス生命 特定疾病保障保険With(ウィズ) ★★★☆☆
ソニー生命 リビング・ベネフィット20(特定疾病保障型終身) ★☆☆☆☆
ネオファースト生命 ネオdeとりお(特定疾病保障型終身保険) ★☆☆☆☆
介護付終身保険
介護付終身は、全体ではかなり商品が多いのだが、毎月保険料を支払う「月払タイプ」は数社しか販売しておらず、逆に一時金をドカッと預ける「一時払タイプ」はかなり多数ある。
前者の月払タイプではジブラルタが強く、それに日本生命、アクサ生命が続くが、前2社に大きく水を開けられている。
一時払タイプは銀行の窓口などで高齢者相手に販売されていることが多く、当サイトでもすべての商品は把握していない。(保険会社が商品を作り、それを銀行ごとに「名前を変えて」売っていたりするので、実態がつかめない)
なお、一時払の介護付終身保険については、以下のコラムでも特集しているので、ご参考まで。
参考コラム:「介護付」終身保険のメリット・デメリット
変額終身保険
最後の変額。
こちらもプレイヤーはさほど多くない。
最強と言われるのはソニー。変額のソニーと言われるくらい歴史もあり、実績もあるが、昨今では運用成績でやや伸び悩んでいる印象。
後を追いかけるのが、マニュライフ、あんしん、アクサ、プルデンシャル、メットライフあたり。
だが、変額の場合、運用結果が返戻金や保険金に反映するため、一概に何が良い、何が悪い、と言いにくい。
例えば、A社とB社。
同じ保障内容で保険料はA社の方が安くても、A社で選んだファンド「運用成績が悪ければ」将来の返戻金は減ってしまう。
逆に保険料が高くてもB社で選んだファンドが「大化け」すれば、返戻金も保険金も増える。
このあたり、変額は全てが自己責任であるため、結局、どのファンドを選んだか?という点が重要であり、会社や商品名で比較してもあまり意味がない。
アクサ生命 アクサの「資産形成」の変額保険 ユニット・リンク ★★☆☆☆
注:アクサ生命では明確に「終身保険」としている商品はないが、ライフプロデュースでは将来的に終身保険に変更することが可能。ユニット・リンクでも満期までの期間を70歳などにすることで、「終身保険的な使い方」が出来る。そのため、ここに列挙した。
まとめ
「人はいつか死ぬ」、「そして、それはいつなのか誰にも分からない」
その大原則がある以上、一生涯の保障を提供してくれる終身保険には一定のニーズがある。
しかし、文中で何度も触れたように、低金利のため、通常の円建終身保険には、正直魅力はない。
筆者なら入らない。
一般の消費者もそう思うのか、終身保険に入るにせよ、ドル建、特定疾病付、介護付、変額など、終身保険の「派生系」の中から選ぶ方が多いが、どの商品が良いか?という点は、個々人の考え方、つまり、どの程度リスクを取れるのか、どんな保障が必要なのか、ということでも変わってくる。
これも個人的な意見ながら、リスクや仕組みを理解出来るなら、筆者は変額終身が良いとは思っている。
今後、全世界的にインフレになる可能性も高いし、特に若い方などは「今の500万円」が「将来も500万円の価値」があるとは限らない。
であるならば、世界の株式や債権、不動産などに広く投資をし、その果実を得る(保険金、返戻金が増える)ことが出来る変額保険が理にかなっているように思う。
だが、変額保険は正直、複雑でもある。
これが理解出来ないということであれば、ドル建あたりが無難だろう。
いずれにせよ、終身保険の検討は色々と話が入り組んでいて、なかなか大変だが、本稿がその検討の一助になれば幸いである。
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